アメリカでは主義主張間のせめぎ合いの結果、日本の感覚で「そこまで行かなくとも」と思うところまで、事態が発展することがあります。
1973年以来、合衆国憲法は、女性の中絶を受ける権利を保障しています。しかし、9月1日にテキサス州で「中絶禁止法」が施行され、胎児の心拍が確認される、妊娠6週間以降の中絶が禁止されました。
6週間では妊娠した事実を知らない女性も多く、厳しい法律ですが、近親相姦や強姦による妊娠でも中絶は許さない、というただし書きも付いています。

行き過ぎを感じるのは、中絶を受ける女性を「ほう助したと思われる」医者や親戚、タクシー運転手らに対し、一般市民が訴訟を起こせる点です。勝訴すると、1万ドル(約110万円)の報奨を得られます。
中絶禁止法について一部の医療機関が上訴しましたが、最高裁は手続き上の理由で、違憲か否かの判断をせず、黙認した形となりました。
この判断を、最高裁の陪席判事の1人で女性のソトマイヨールは「難問の直視を回避した」と厳しく非難しました。これは少数派の判事が判決に対する反対意見を表明するために設けられた、正式手続きにのっとり行われた発言です。
司法省は中絶禁止法を違憲として、テキサス州の連邦裁判所に訴えました。また、産婦人科医の1人が中絶手術を行ったことを新聞に寄稿し、州外の市民2人に訴えられました。これは個人対個人の裁判です。
最高裁は、早晩、中絶禁止法が合憲か否かの判断を迫られることになります。市民同士を訴訟の矢面に立たせたテキサス州が、今後どう対応するか。アメリカ社会の将来を占う重要な時を迎えました。